第144話 行商のまねごと(2019年4月)

何度も書くが僕の憧れは寅さん(男はつらいよ)だ。糸の切れたタコみたい(おいちゃんの言葉)にふらふらふらふら生きてみたい。が、僕は寅さんと違って独身じゃないし、子供は4人もいるし、作業場ないと今の仕事も成り立たない。ないない尽くしで憧れは遠くなる一方、行商なんて夢のまた夢と思ってたけど、ふとチャンスを得た。
フリフリLEDという振って文字を浮かべるオモチャを得た。これをたくさん作って呑み屋と駅で振ったら100本ぐらいアッという間になくなった。1000円で作って1000円で売り、半分くらいタダで配ったから100%赤字だけどマジで気分がよかった。
思えば阿蘇カラクリ研究所を始めて12年経つけど「その場で売れるモノ」を持った試しがなかった。名刺の裏にも「商品ない」と書いてるし、社歌も「商品ない」と歌ってた。



「うわー商品持っちゃったー」
まだ試作品だけど四捨五入したら商品ぽいモノを持ってしまった。併せて巨大なジュラルミンケースをたまたま客に貰った。
「いやーん、憧れがすぐそこに来てるー」
やっちゃいけないと分かっているけどフリフリLEDを寅さんケースにギッシリ並べてみた。







「カ・イ・カ・ン・・・」
もう止まらない。行商のまねごとをすると決め、作業着と同じ色でのぼりを2本作った。



「展示会とか狭い所で売るには大き過ぎるね」
専属デザイナーのくまみね氏と話してたら「小さいのぼりもある」そう。「お金の問題もあるからいずれ作ろう」って話してたら勝手に作って押し売りされた。



行商は一人だから絶対寂しい。寅さんにはポン州がいる。水戸のご老公には助さん格さんがいる。僕に相棒ないけれど動く看板ぐらい欲しい。
振るタイプの看板を車のワイパーで作った。



次に回すタイプの看板を在庫のモーターで作った。



これで少し賑やかになった。
「よーし!」
もうどうにも止まらない。完全に気分が乗ってしまった。
「次は売る物を作らなきゃ!」
フリフリLEDは一日26本しか作れない。夜なべを繰り返し在庫100本作った。



作りながら商品一つじゃ寂しいって思った。顔が大きくなる板(小)も20枚作った。



「売れなくてもいい、これは本業じゃないから使ったぶんだけ稼ぎゃいい」
最初はそう思ってたけど使ったぶんがどんどん膨らむから気付けば冗談事じゃ済まない領域に達してしまった。
もう売れなくていいなんて言わない。言えない。これは寅さんのまね、行商のまねだけど、どうせまねするならちゃんと真剣にまねしたい。
大好きなシーンがある。甥っ子のミツオに鉛筆を売るシーン。今どき誰も使わぬ鉛筆を言葉巧みに寅さんが売る。その話術に皆が驚く。これを寅さんは「のっぴきならねぇところから絞り出した知恵」と言った。
「今夜この品物を売らないと腹すかせて野宿しなきゃならねぇ、のっぴきならねぇところから絞り出した知恵みてぇなもんなんだよ」
「そう!僕もそういう知恵が欲しい!」
本気でまねして「知識」じゃなく「生きてく知恵」が欲しい。
例えば片道分だけ交通費を持って「帰りはこれを売らなきゃ帰れない」という「のっぴきならねぇ状況」に自らを追い込む。ポヤポヤしてちゃダメだ。どうせ憧れに手を付けるなら「のっぴきならねぇ状況」もまねしたい。
久しぶりにワクワクが止まらん。「これぞ遊びだ」って叫びながら準備してる。
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なにせ初めての事ですのでまずは行商の練習をし、勘所を得た上で旅に出たいと思ってます。
第一回は地元の道ばたを予定。ツイッターこちらのページで告知するのでどうぞ皆様遊びにお越し下さい。また行商場所を提供頂ける方も募集してます。